『偶然と想像』を見てきた。
濱口竜介監督作『偶然と想像』を見てきた。
『偶然と想像』は3つの短編がオムニバスになっている作品なんだけど、全体的に不穏さと面白さが共存してる独特の雰囲気だった。
1つ目の短編『魔法(よりもっと不確か)』は特に不穏で、刃物が出てきそうな緊張感があった。激しい対立があるわけじゃなくて、それぞれのカオスが水面下で蠢いている感じ。でも憎み合ってると言うと違っていて、何というか、彼らの関係性も、互いへの感情も、言葉という形を与えられないけど、しかし決して理解できないものではない。そんな感じがした。
2つ目、『扉は開けたままで』は、揺らぎながら安定していくような、瀬川のどこか超越的な雰囲気が奈緒を繋ぎ止める重石になり、奈緒の揺らぎが瀬川に伝播するような、かかわりあいの相互作用が面白かった。あと、なんか見たことある人が出てるな〜と思ったら甲斐翔真さんだった。オタクなのでニチアサに出てた俳優さんを見かけると「おっ」ってなる。
3つ目、『もう一度』は、コントっぽい感じの組み立てで、ハイセンスなギャグシーンも何度かあり、客席から笑い声が聞こえたりもした。互いに他人なんだけど、他人と言い切れるわけでもない、しかし代償というわけでもない、そういう決定しきれない関係性が呼び水になって眠っていた回路を目覚めさせ、その回路の目覚めが関係性を変化させる独特の他者性みたいなものが面白かった。
3作とも、自分の中の言語化しきれない絶妙な部分をスクリーンの中に描き出されたような感覚になった。3作とも敢えて感情を抑えて演技する演出が取られていた。その感情の空白に自分の中の掴みどころのない部分が投影されたのかもしれない。『もう一度』の2人が奇妙な自己開示をしていたように、僕はスクリーンを他者として自分を映し出していたような気がする。
3作に通底して、明白でない模糊としたものを描いていたが、不安にさせるわけではなく、むしろ観客として一歩引いた視点から見ることでその分からなさを面白がれる仕掛けになっていたように思う。
不確定を不確定のままに受け取らせてくれる、不穏だけど心地いい作品だった。